網膜症とサイトカイン


 糖尿病で、血糖コントロール不良の状態が長期間持続すると、 「糖尿病性合併症」のひとつである「網膜症」が起こってくることはすでにご存知のことでしょう。  網膜とは、カメラでいえばフィルムに相当する物です。 これが、障害されると当然視力が低下し、最悪の場合は失明に至ります。

 網膜症の病態としては昔から、(1)血管透過性の亢進 (2)血管閉塞 (3)血管新生の3つがあげられています。

最近はそれぞれの病態とサイトカインの関係が解明されつつあります。 「サイトカイン」については、第90回で解説しました。

 「血管透過性の亢進」とは、網膜の血管から血液成分の「しみ出し」の増加することをいいます。これに伴い眼底出血、網膜浮腫(網膜の腫れ)などが起こってきます。

 「血管閉塞」とは、読んで字のごとく網膜の血管がつまることです。小さな血液の固まり(血栓)が血管につまって閉塞が起こります。

 「血管新生」とは、新たな血管が勝手にどんどん増えてくることをいいます。血管が増えれば良いのではないか、と思われるかも知れませんがそうではありません。勝手に血管が増殖するため網膜に到達する光をさえぎったりして視力に重大な影響を与えます。また、新生血管は出血しやすく眼底出血の原因となります。

 さて、「血管透過性の亢進」には、「血管内皮細胞増殖因子(VEGF)」といわれるサイトカインが深く関わっているといわれています。動物の眼の中にこれを注入すると血管透過性が亢進することが実験的に証明されています。またこの物質は血栓を作りやすくする働きもあり「血管閉塞」にも一役かっているようです。そしてその名前が示すように「細胞増殖」がどんどん進み「新生血管」が出てきます。

 網膜症に関連したサイトカインはVEGF以外にも多数知られています。正常な状態ではサイトカインは生体が生存していくために必要な物です。しかし、血糖コントロール不良の状態では体内の代謝に異常をきたし、サイトカインの作られ方にも異常をきたし、これが悪さをすると考えられています。サイトカインに悪さをさせないためにも、ふだんの血糖コントロールが重要です。


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