メタボリックシンドロームの周辺


動脈硬化の危険因子の研究は昔からいろいろな研究者によって精力的になされてきました。

高コレステロール血症とか高血圧が動脈硬化に非常に関係があるということは一般の人にも広く知られています。

その後、1988年にReavenが「シンドロームX」という概念を報告して以来、89年にKaplanが「死の四重奏」、91年にDeFronzoが「インスリン抵抗性症候群」、94年にはMatsuzawaらの「内臓脂肪症候群」といった概念が次々と発表されました。

これらは、軽い高脂血症、高血圧、耐糖能異常などひとつひとつをみると、さほど深刻な状態ではないにもかかわらず、こういった状態が複数集積すると動脈硬化性疾患の重大なリスクファクターとなることを示したものでした。

そして、その根底には「インスリン抵抗性」が存在していることが次第に明らかになってきました。「インスリン抵抗性」という用語はこの連載にも時々登場していますが、簡単に言うと「インスリンの効き目が悪い状態」を指します。

インスリン抵抗性の主な原因は肥満です。そして最近では単に体に脂肪が多いだけではなく、蓄積している部位が重要であるかということも明らかになっています。皮下脂肪よりも内臓脂肪の蓄積の方がはるかに悪さをしている、ということも明らかとされました。

このような一連の研究から「メタボリックシンドローム」の診断基準にへそ周囲の腹囲が含まれています。本来はCTスキャンにより内臓脂肪を測定すべきなのですが、多くの人にCTスキャンを実施するのは現実的に不可能なので簡便な腹囲が採用されています。

日本でも2005年に「メタボリックシンドローム」の診断基準が発表されマスコミで大々的に報道されました。最近の研究会や講演会は「メタボリックシンドロームと××」とか「メタボリックシンドロームをふまえた××」などというものが非常に多く、ちょっと食傷気味のきらいがあります。

さて、ある雑誌に次のような記事が掲載されていました。動脈硬化症の新たな危険因子として「慢性腎臓病」が注目を集めつつあるとのことです。腎臓の働きが悪化して透析を受けている患者さんでは、心筋梗塞などの心血管疾患の頻度が高いということがわかっています。

今後、メタボリックシンドロームの診断基準や概念そのものが変わってくる可能性があります。


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