糖尿病とクリティカルパス


クリティカル・パスとか、クリニカル・パスという言葉を良く耳にするようになりました。 新聞等にも良く出てくる言葉です。一体これはどういう意味なのでしょうか。

クリティカル・パスとはもともと経営工学上の用語であったようです。この言葉を直訳す ると「余裕なしのせっぱ詰まった(クリティカル)作業経路(パス)」ということになります。 その昔アメリカの原子力潜水艦を建造するときに使われた用語であるとも言われています。 要するに、無駄を一切省いていかに効率的に作業を推進し、製品を生産するかと言うこと です。

医学の分野においても、医療費の削減、素早く適切な診断・治療を目的としてこの考えが 取り入れられてきました。しかし、工学系の考えをそっくりそのまま、生身の人間に応用 するのは無理があるため、独自の改良なども行われつつあります。また、「クリティカル」 という言葉は医学的には余りよい意味で使われないので「クリニカル」というように言い 換えるようになってきています。

糖尿病の分野に関しても、現在この糖尿病はどのような段階にあるかを見極め、その段階 に応じて考えられる体の不具合を想定して、必要な検査などがある程度前もって予測する ことが可能です。そうすると必要な検査が無駄なく迅速に行うことも可能となり、合併症 などの発症・進展を阻止し、最終的には医療費の削減につながるのでしょう。

では、クリティカル・パスとかクリニカル・パスは良いことづくめなのでしょうか。 実は、重大な欠陥もあります。

20年くらい前に、アメリカで原因不明の下痢が大発生したことがあります。水道水にあ る種の原虫が混じていたのです。保健衛生関係の役所や学者が皆クリティカル・パスに従 って水道水の水質検査や便の細菌検査などを繰り返しました。しかし、一向に原因がわか りませんでした。患者は増える一方で、免疫力の落ちているエイズ患者の人たちか次々と 亡くなっていきました。ある、検査技師がクリティカル・パスを無視した検査を行ったと ころ、原因がばい菌ではなく原虫であることがわかりました。このようにクリティカル・ パスは滅多に起こらないような事態に対しては無力であるどころか、返って事態を悪化さ せることにもなりかねない側面も持っています。

あまり、一つの考えに凝り固まらず、柔軟な対応をするのがベストでしょう。


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