糖尿病警察


「糖尿病警察」と言う言葉を聞いたことがありますか。 聞き慣れない言葉です。

実はこういうことなのです。 ある家族のご主人が糖尿病になって病院にかかっているとします。 奥さんを初め家族全員がご主人の糖尿病を気遣います。 一家の大黒柱であるご主人が糖尿病の合併症で倒れては一大事です。 奥さんは食事に気を配り、ご主人に適度な運動を勧めます。

ここまではよいのですが時には度を超してしまうことがよくあります。
「そんなに食べると目が見えなくなってしまうよ!」
「家にばかりいないで、外に出て散歩でもしてきなさい。」
「また、そんなに食べて!体重が増えたらどうするの?」
などなどと、つい口うるさくなってしまいます。

ご主人は食事療法の重要性とか運動療法の効果については家族の誰よりも十分知っています。挙げ句の果てには娘にまで「お父さん、早死にしたくなかったら食事療法を守りなさい」などと言われます。

家族中が糖尿病患者という犯人を監視する刑事のようになっています(糖尿病警察)。 何をするにも家族に監視されていると言う錯覚にとらわれて ついにご主人は隠れて大量のお菓子などを食べるようになってしまいます。 こうなっては、治療が非常に困難になります。 内科医の手に負えなくなることもあります。

私の患者で入院加療により血糖コントロールが改善して家庭に帰られた方がいます。 家に帰るとそれまでの反動で間食が若干多くなったようです。 心配した奥さんが病院にやってきて「最近隠れて間食しているようです。 私から注意しても言うことを聞きません。先生から注意してやってください。」 と言います。 血糖値やグリコヘモグロビンはさほど高くなっていなかったので、 あまり口うるさく注意せずもう少し様子を見るよう奥さんに説得しました。 次回、その患者さんが外来に来たときに間食のことには触れずに 「最近少し血糖値が高めのようですね。」 とだけ言っておきました。 その後、奥さんが間食の注意をやめてから 本人が間食をしなくなったことがわかりました。

周りの人が、糖尿病患者にいろいろ気遣いをするのは悪いことではありませんが、 患者さんは立派な大人です。 あまり、小学生的な注意をするとかえって逆効果となることが多いようです。 医者も家族もくれぐれも「糖尿病警察」にならないようにしたいものです。


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