糖尿病と時間医学


最近「時間医学」などという言葉をよく聞くようになりました。 これは、いったい何なのでしょうか。

もともと、人間でも他の生物でも体の中には一定のリズムを生み出す仕掛けがあり、 時間によってある機能が活発になったり不活発になったりする事はよく知られていました。睡眠がよい例でしょう。 通常は明るい日中に活動し夜間暗くなると眠って疲れをとるのが普通です。 体の中のホルモンも時間によってたくさん分泌されたり抑制されたりします。

従ってある時間の血液を採ってホルモンの量を測ったとしても、 その時間のホルモンの状態を知るだけで一日のうちにどのように濃度が 上がったり下がったりしているのかはわかりません。 もっとも、その値が桁外れな異常値であれば体に異変が起こっているということはわかります。 しかし、その値が正常値の範囲であれば判定は難しくなります。 もしかするとその時のホルモンの量は正常であっても 違う時間帯では異常値を示しているかもしれません。

血圧なども同じようなことがいえます。 一日中同じ血圧の人はいません。 日中活動しているときと、夜間睡眠しているときでは値が違っているはずです。 最近、血圧を一定時間ごとに自動的に測定して記録する 小型の装置が臨床応用されるようになりました。 これですと一日のの血圧の変動の様子がよくわかります。 たまたま病院で血圧を測ったときだけ緊張して高い値を示す人が少なからずいます。 こういう人は、高血圧とは言えませんが一回きりの測定では、何とも判断ができません。 また、一日の血圧の変動のリズムが狂っている人なども発見されています。 血圧は、いろいろな要素が複雑に絡み合って決まってくるのでもし、 血圧の変動のリズムに異常が見つかった場合、 血圧を決定する要素について一つ一つ検討されます。 そうすることによって、一回だけの測定では見逃されていた異常が 発見される確率も高くなるでしょう。

このように、ある時点だけの測定値をもとにして病気を考えるのではなく、時間経過をも含めた上で病態や治療などを考える学問が時間医学といわれるものです。

糖尿病についても同様のことが言えます。 ある時点の血糖値を測定しても大したことはわかりません。 一日のうちで血糖値がどう変動するのか、 また1週間、1ヶ月、1年のリズムで血糖値はどのように変動しているのかを知ることが大事です。 糖尿病で入院したことのある人はたいてい「血糖の日内変動」と称して 朝から晩まで時間ごとに血糖を調べられたことがあると思います。 こうすることにより、単に「血糖が高い」というだけではなく 「空腹時は高くないが、食後に異常に高くなる」 などといったより精密な情報を得ることができます。 しかし、これを毎日実行することは不可能です。 幸いにして血糖値に関しては、ヘモグロビンA1cという1ヶ月程度の 平均的な血糖値の高低をしる指標があります。 これが高ければ、この1ヶ月位平均して血糖が高かったのだな ということがわかります。 今後、測定機器の発達で採血をせずに 24時間の血糖の変動を記録してくれるような装置が開発されれば よりきめ細かい治療ができるようになると思われます。


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